映画「カムイのうた」菅原監督インタビュー

カムイの歌写真

2023年秋に完成予定の「カムイのうた」は、アイヌ文化をテーマにした映画です。製作は東川町。撮影が終わり、現在(同年3月中旬)は編集作業まっただ中だという菅原浩志監督に、撮影秘話や映画に込めた思いを聞きました。

「カムイのうた」について

映画の完成まであとどのくらいですか。

菅原監督 5カ月くらいでしょうか。編集作業は結構時間がかかるんですよね。でも時間をかけるほど良い作品になります。

「カムイのうた」を撮ることになったきっかけを教えてください。

菅原監督 東川町を舞台にした「写真甲子園 0.5秒の夏」という映画を作ったご縁で、同町の松岡町長から旭川市にある川村カ子トアイヌ記念館の映像制作を依頼されたんです。そこで儀式に参加したり、館長の川村兼一さんに何十時間もインタビューをしたりしているうちに、アイヌとその文化についてとても興味が湧きまして。それを映画で表現したくなったことがきっかけです。

主人公・テルのモデルは、口承で伝えられていたアイヌの物語を文字にして綴った『アイヌ神謡集』の著者・知里幸恵(ちりゆきえ)さんです。彼女を題材に選ばれた理由は。

菅原監督 映画の中でも描いていますが、知里幸恵さんは、自分が通うアイヌの学校から、倭人が通う女学校の進学試験を受けたけど、成績優秀にもかかわらず入学を拒否されているんですね。でも彼女は「私はアイヌに生まれて誇りをもっている」という言葉を残している。卑下されているのに、どうやってその誇りを持ち続けていたのか、その心を知りたくなった、というのが理由でしょうか。それでいろいろ調べていくうちに、彼女を含むアイヌの考え方やライフスタイルの中に、今の時代に必要なものがあるとも思いました。

必要に感じたのはどのようなことですか。

菅原監督 「すべてに神が宿る」というアイヌの中心部分の思想ですね。アイヌは全てに敬意やリスペクトを持つことが大事だと伝えたかったのではないでしょうか。ですから私たちも、例え人種が違っても、相手にリスペクトを持つことが必要で、そうすると戦争や紛争、いじめや差別はなくなっていくはずです。これこそ多様性の時代にふさわしい考え方ですよね。

アイヌは自然や物にも神が宿ると考えています。

菅原監督 自然には敬意を示し、物に対してはそれを大切に思う気持ちが大事なのかな。以前、こんな話を聞きました。小学校の先生が生徒に「氷が溶けたら何になる?」と聞いたら、みんな「水になる」と答えたのに、アイヌの子は「春になる」と言ったそうで。発想が豊かですよね。自然に敬意を示し、それと共存するという考えが、そういう感性を育てたのかもしれない。あと子どもが床に水をこぼした時に、おばあちゃんが「床の神さま、喉が乾いてたんだね」って言ったそうなんです。やさしさを感じますよね。物に神が宿ると考えるからこその言葉です。

大雪山も重要な〝登場人物〟

大雪山に対する思いを聞かせてください。

菅原監督 旭川から東川に向かう道を運転していると、突然、大雪山が姿をあらわす場所があるんです。あの景色を見るたびに、自分という存在や悩み事が、とてもちっぽけなものだと感じる。何万年も風雪に耐えてきた大雪山から勇気、力強さを与えてもらっているような気がします。東京の友だちにも「百聞は一見にしかず。見る価値あるぞ」と、大雪山のすごさを力説しています(笑)


映画にも登場しますか。

菅原監督 大雪山は映画の中で重要な〝登場人物〟の一つです。北海道は雪の影響で、映画の舞台となる明治、初期、大正の建物がほとんど残っていないのですが、そのような環境の中、いつの時代も変わらずにどんと構えているのが大雪山なんですよね。この大雪山をアイヌたちの心の帰ってくる場所として、映像に収めました。夏はなかなか姿を見せてくれず苦労しましたが、1年で最も美しい1~2月の白い大雪山はしっかり撮れています。

自然の美しさも楽しめそうですね。

菅原監督 シマフクロウやヒグマなど動物もたくさん出てきますよ。『アイヌ神謡集』の中で、神が動物に姿を変えて語っているものがあるので、時間をかけて撮影しました。


自分を主張できる社会を願って

印象に残っている撮影は。

菅原監督 1月に撮影した冬のシーンでしょうか。明治時代、労働力として集められたアイヌが、船からニシンを運ぶというシーンを撮影したのですけど、こういうのって今はCGでできてしまうんです。でも私はかつてのアイヌと同じ体験をする必要を感じ、実際にニシン漁が行われた時期に、同じ場所で同じ重さのものを担いで…という撮影に挑戦しました。アイヌと向き合ううちに、少しでも彼らと同じような体験を共有する必要を感じたんです。結果マイナス20度を下回る吹雪の中での撮影となり、それはもう想像を絶する寒さでした。

普段とは違う心構えで撮影に挑んだということでしょうか。

菅原監督 そうですね、振り返れば今回はいつもと違うことがいくつかありました。例えば私は食事の時にお酒を嗜むのが好きなのですが、映画の企画から今まで1滴も飲んでいません。あとシナリオを書いている時も、36時間飲まず食わず寝ずの状態がありました。今回の映画に向き合うにあたっての自分なりの覚悟が、そういう形であらわれたのだと思います。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

菅原監督 昔のアイヌの生活を再現することにもこだわりました。映画を見て、アイヌの時代にタイムトリップし、アイヌがどのような気持ちでいたのかを感じてほしいですね。アイヌを含め、これからの時代を生きる人たちが、自分をちゃんと主張できる社会、学校になっていくことを願っています。

(聞き手/ライター 孫田二規子)


カムイの歌写真2あらすじ
アイヌの子どもたちだけ集められた土人学校に通っていた少女・テルが、倭人が通う女学校を受験。合格点をはるかに超えていたが、アイヌであるという理由で結果は不合格であった。その後テルは、アイヌ語と日本語が流ちょうだという理由で、アイヌ語研究の第一人者・兼田教授にユカラ※(叙情詩)を文字で残すことを勧められる。
※ユカラのラは小さいラです